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五月狂。

 その青年の屍体は、薔薇園に続く母屋の庭で発見された。
 そこはいちめんの絹高麗の芝生で、頭上には優しい天蓋となって蒼穹が拡がり、風は欅の新樹をほしいままに揺ら
 して過ぎた。
 
 五月の死にふさわしく、青年はライト・ブルーのスラックスから素足を覗かせ、生絹のシャツをはだけた胸元に
 は、、、
 
 “夜兆”名づけた黒薔薇が一輪、謎のように載せられていた、、、
 
                                        中井英夫「薔薇への遺言」

五月、青く燃えるような、新樹の盛んなさまを眺めていると、その焔(ひ)に焼かれてみたくなります。
暮れ方の窓辺から、夜が音もなく這いり込んできます。
嫩(わか)い幹を傷つけたときに嗅がれる、その匂いが、夜の訪れとともに、辺りを満たしています。
宵闇のなか、しづこころなく、、、
五月狂。_d0004250_0291579.jpg

by viola-mania | 2005-05-01 12:40


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