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含羞。

梅雨明けの声を聞かぬまま、季節はすっかり夏へと突にゅう。
雨雲の向こうに覗いている青空を仰ぎ見る、小糠雨(こぬかあめ)に濡れそぼった15歳のきみの横顔(プロフィール)は、7年のとしつきを経たいま、青年のそれへと変わっていました。


 きょうは、雨降り。
 雨の降り方にも梅雨らしさがうかがえます。
 その少年にはじめて出会ったのは、4年前の、梅雨のただなか、、、きょうのような
 雨降りの日でした。
 下校途中の少年は、朝から雨が降っているにもかかわらず傘を持っていませんでし
 た。
 バスのなか、眼の前に立った少年をいぶかしく思いつつも、その実、少年の容貌に惹
 かれていたことは否めません。
 でなけば、同じ停留所で降りた少年に、信号待ちの横断歩道で、傘を手向けるはずが
 ありません。
 少年とひとつ傘のなか。
 無言の数十秒間が、一生のように長く感じられました。
 「傘、持っていく?」
 「いえ、ありがとうございました」
 少年との分かれ道、家まで走れば数秒ほどの場所で、そんなことばを交わして、少年
 とは別れました。
 それから、何度か、停留所で見かけていた少年ですが、やがて、見かけることもなく
 なり、月日だけがながれてゆきました。
 そして、きょう、、、
 雨降りの停留所で、少年は、蝶のようにひっそりと傍らに佇んでいました。
 その容貌も、サナギだったあの頃に比べて見違えるような美しさ。

  ただ、人ごとに、この時分の花に迷ひて、やがて花の失するをも知らず。

 世阿弥の唱えた、花の伝えが、ふと、思い出されました。
 そして、バスを降りた少年は、朝の改札口へと紛れてゆきました。


「時分」と題した日記を、スミレノオトに載せたのは、3年前の7月のこと。
その少年、否、青年と同じバスに搭乗しようと、青年の白いTシャツの背中を見るとはなしに眺めていたら、かすかにコロンが香りました。
オトナのたしなみを身につけた青年をおもはゆく感じながら、後部シートに掛けると、青年は、そのたしなみのゆえか、空いているシートに掛ける気配もありません。
そんな青年の含羞(がんしゅう)をゆかしく感じながら、青年のほうに目を向けると、
「あの雨の日のこと、しっかり覚えてますよ」
と無感心をよそおった、青年の優しい瞳に逢いました。
こちらも無感心をよそおいつつ、青年の視線を軽くかわしました。
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by viola-mania | 2008-07-27 00:00 | 少年

実直。

一つ前でも後でもダメ。
そのスクール・バスに乗るには、実直さが必要です。
たとえば、このバスに乗っている少年たちの、それが制服となっている、Vネックのセーターを見てみると、その両腕には、いつもきちんと折り目がついています。
そんな、実直さを持って、定刻より数分遅れて到着した、一つ前のバスをあえて見送ると、こちらは、定刻どおりに到着したスクール・バスに乗って、仕事場まで、、、
通称、バンビのとなりに座ると、バンビのとなりには、これも通称、青菊(あおぎく)が座っていて、その向かいのシートには、中学生の青菊と同等の口をきいている、小学生の男の子がシートの上に両ひざを立てて座っています。
つまり、その両ひじを背もたれについて、後ろの席の青菊と話しているというわけ。
なんだか、パブリック・スクールを舞台にした、映画のひとこまのような光景です。
寄宿舎映画の導入部が、すでに大人になった主人公の、淡い回想から始まるように、その光景に、在りし日の自分の姿を重ねていたのかもしれません。
そんなわけで、ポロシャツの両腕には、いつもきちんと折り目をつけています。
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by viola-mania | 2008-07-20 06:51 | 少年

歌心。

いつか、七里が浜で拾った海綿に、愛用の「牛乳石鹸」をたっぷりとつけ、きのうの夜の入浴は、その日中にかいた汗を存分に洗い流しました。
さて、畳の上に布団をのべると、これもその日中に購った歌集を一首ずつ、それこそ、咀嚼するかのように読んでゆきます。


 燈(ともしび)をかかげつくしてきみのなき七月となりぬ何にあはなむ

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いつか、ともだちが詠んだ「薄荷の香かをれるあたり少年へ燈(ひ)をそそぐ初夏のバスを見てをり」といううたを思い出します。
全開にした窓からはいり込む夜風に、匂うシャボンの香。


 水鳥の夜の声に醒む星の夜の胸を放ちて鳥ありしかな

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梅雨も中休みといったこのごろ、最近、トラツグミの声を聞いていません。
湯舟にからだを浸す夜半など、その声を星の瞬く音と聞いていた、青葉の季節も、いよいよ壮年の夏を迎えようとしています。


 合歓の葉をねむらせてゐるはかなごと神よりたまふ時間のありき

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何という蕩然としたうたでしょう。
夏を思わす日下がりの午後、偶然手にした歌集に必然を感じたその夜半。
神よりたまうこんな時間が、いまは、とてもいとおしい。
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by viola-mania | 2008-07-13 11:31 | 文学

星願。

夏を思わす梅雨晴れの朝に、猛暑の予兆を感じました。


 葛の花踏みしだかれて苦しければ相思わざるひととなりなむ


本歌は、釈迢空の「葛の花踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」なのでしょう。
短歌界の巫女と呼ばれるひとのそれは、何とも神託めいて苦々しい。
そんなわけで、ひさしぶりに、うたから喚起力を与えられた、日下がりの午後。
古書店の店先にある木陰のベンチに座ると、かたわらには色とりどりの短冊が置かれ、しきりに誓願を促しています。


 きみいまだ紅顔かがやき来れるを五衰のがれむすべのしらなく


ふと、星祭りの夜のことなど思い出したりしながら、ぬぐう汗の苦さよ、、、

*画像、上、古書店の軒端? に揺れる、下、山中智恵子歌集「神末(かうずゑ)」。
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by viola-mania | 2008-07-06 10:05 | 文学