ユッキーこと三島由紀夫が、二十八歳で書き上げた長篇、『禁色 第二部 秘楽』(昭和28年)を読んでいたら、絶世の美青年としてこの物語に登場する南 悠一と、彼を傀儡(くぐつ)のごとく操る老作家、檜 俊輔とが、その年、横須賀線の車窓から見た「大船観音」を書いた、
電車は大船に着いた。二人は駅のむかうの山あひに、うつむいてゐる高い観音像の項(うなじ) が、煙つた緑の木々を抜きん出て、灰色の空に接してゐるのを見た。駅は閑散である。 こんな描写に、近くにいらっしゃいながら、一度も詣でたことのなかった大船観音寺へ、その観音さまを見に行きたくなりました。 ところで、観音像の竣工は、昭和35年ですが、その着工は、それを遡ること30年前。 工事が着手されたその年、昭和4年は、世界大恐慌のさなかにあり、そんな世相のなかで、観音像を建立するべく寄付金集めは困難を極めました。 そんなわけで、その五年後、観音像は未完成の状態で工事を中断、そのあとに起った戦争を眺め、敗戦したこの国の経済が持ち直し始めた、昭和30年まで、工事の再開を待たなければなりませんでした。 さて、こんな事情を、ユッキーの書いた「大船観音」の描写に照らすと、悠一と俊輔、否、彼が見た観音さまは、白衣(びゃくえ)をまとった、いまのお姿のものではなく、未完成の状態で放置されていた「大船観音」ということになります。 そんな観音さまをひとわたり眺め、大船駅からバスに乗って鎌倉駅へ戻ると、この「大船」という駅が、ユッキーの描写どおり、疾うから“閑散であ”ったということがわかりました!! とはいえ、市民にやさしい大船が、そんなところも含めて大好きです。 *画像、大船観音はいいぞ!!
by viola-mania
| 2009-06-28 00:44
| 文学
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いい匂いのするペエジ
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