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菫色。

このところ、当書肆の名に冠した「菫」ということばが気になり、春まだ浅い小庭にスミレの花を探しにゆきました。
ところで、先の日記を読んでいただいてもおわかりのように、『足穂拾遺物語』を繙いてからというもの、この玻璃質のこころを持った、怪物作家のことが気になり、先の書物を読み終えぬうちから、『稲垣足穂の世界 タルホスコープ』(平凡社刊)なる、小振りなビジュアルブックを買ってしまうといった始末。
その帯には、


 A感覚と宇宙的郷愁——
 イナガキタルホの世界を、「箱」「ヒコーキ」から「桃山御陵」まで、42のキーワー
 ドで覗く


とあって、それぞれのキーワードについて42名の作家たちが、稿を寄せています。
わけても気になったのが、「菫色」というタイトルで寄稿している松岡正剛の一文で、このなかで、我らがセイゴオセンセイは、自身の生立ちを辿りながら、タルホが無上の色と見ている「菫色」の秘密を、明らかにしようと試みています。
ところで、タルホの書物のうち、いくども繙くものの一つに、『男性における道徳』があるのですが、セイゴオセンセイは、その作品の一節を引き、「われわれの存在における赤外線と紫外線のちがいというもの」に言及しています。
そして、


 「帰ってから聞かせようと思わないで旅行をする者は一人もいない」。これはパスカ
 ルの言葉だが、なるほど、あらゆる見聞への関心、観光も小旅行も合わして、自分へ
 の好奇心と気晴らしとを目的としている限り、それは邪淫にほかならない。これでは
 赤色あるいは赤外部に属して、菫色ないし菫外部へはほど遠い。


とこの一節を、タルホの旅行嫌いに照らしながら、自身の考察に重ねているのですが、そこには「赤外線的な自己慰安に対し、紫外線的な自己投企を断固として強調しようとした」タルホの意志がうかがえ、こちらも、“紫外線的”なるその花を求めて、小庭という名の「地上」(タルホ的にいえば)を、それこそ、拡大鏡のように目を丸くさせながら、歩いてみたというわけです。
でも、スミレの花は見つからず、、、
とはいえ、それはそれでよいのかもしれません。
だって、タルホもいっているではありませんか、
「一日一度くらいは、自分のなかのもっとも遠方的なるものに思いを馳せなさい」
と。。。

*画像、拡大鏡で見た? 小庭のスミレ。
菫色。_d0004250_033993.jpg

by viola-mania | 2008-03-23 00:20 | 文学


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